「波紋」
多分、名古屋の伏見ミリオン座で予告編を見た時に光石研主演の映画が多いぞと思いました。
その記憶が新しいうちに「波紋」が静岡市で上映されると知って是非とも観なければ、光石研だけでなく筒井真理子も主演する映画は観るしかない、その上、安藤玉恵も出演し、最近よく見かける磯村勇斗も出演しているとなれば猶更観るしかありません。
ただ監督が荻上直子と知った時は、「彼らが本気で編むときは、(2017)」と「川っぺりムコリッタ(2022)」の監督かぁ、その雰囲気の映画なのかなぁと一瞬迷いましたが、やはり思い直して観ることにしました。
東北大震災直後の放射能漏れ報道に怯えたのか突如失踪した夫が忘れた頃に帰って来た、ガンなんだと言って。
まず、この設定が秀逸でした。
夫が失踪していた間に妻は精神状態を保つために新興宗教にのめり込み、ひとり息子はそんな母から逃げるために親元を離れて進学・就職しているのはありそうなことと感じます。
さらに追い打ちをかけるように夫は高額治療費を出してくれと懇願し、息子は聴覚障害者を婚約者として連れて帰省し、新興宗教は弱みにつけこんでもっと金を搾り取ろうとし、同僚は夫に復讐しちゃえとそそのかします。
私は女性であるものの、この妻のように他人を頼って逃避したり言うなりになったりしないタイプでして、どちらかと言えば夫か息子の立場の方が理解できるので映画自体に感動はしませんでしたが、ただ筒井真理子の演技に感心しました。
ミニシアター公開の邦画に筒井真理子か渡辺真起子か出演しているなら観る価値ありと判断しますので、流石だなあと表情の変化に目を奪われました。
他の女優も癖ある役柄を徹底して演じていて、こういう行動は女性あるあるのことなんだろうなあと冷静に観ていました。
邦画としては珍しいテーマを描いている気がします。
私自身はあまり実感していなかった事象だったので断定できませんが、評価されるべき映画と思います。
ひとつ難癖をつけるならば、タイトルの波紋を可視化するシーンがありますが、あれは漫画みたいで不要だったのではないかと思ってます。
「彼らが本気で編むときは、」の生田斗真と桐谷健太とも、「川っぺりムコリッタ」の松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかりとも違う荻上監督の世界ではありました。
独特な世界観で俳優が光る映画を撮る方なのかなあとも思います。
肝心の、私が最初に惹かれた光石研と言えば、無害の夫だからこそ邪魔な存在になる役どころを演じていたと感じます。
次の主演作ではどの光石研が現れるのか楽しみでなりません。
ミニシアター公開の邦画で聞いたこともない監督の作品だけど予告に惹かれる、どうしようかなあと迷う時に、前述したように筒井真理子か渡辺真起子が出演していれば観ますが、男性の場合なら光石研、川瀬陽太あたりもそうです。
俳優の魅力もさることながら映画への熱量を感じるからです。
また、邦画を観ると決める時は、面白いか否かだけでなく好きな監督か今後期待できる監督かそれとも監督デビュー作かがポイントです。
そこは海外作品とは全く観るスタンスが異なります。
ミニシアター公開を観るのは日本映画を育てる意味で大事と観客ながら心しているつもりです。