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June 10, 2023

「波紋」

多分、名古屋の伏見ミリオン座で予告編を見た時に光石研主演の映画が多いぞと思いました。
その記憶が新しいうちに「波紋」が静岡市で上映されると知って是非とも観なければ、光石研だけでなく筒井真理子も主演する映画は観るしかない、その上、安藤玉恵も出演し、最近よく見かける磯村勇斗も出演しているとなれば猶更観るしかありません。 
ただ監督が荻上直子と知った時は、「彼らが本気で編むときは、(2017)」と「川っぺりムコリッタ(2022)」の監督かぁ、その雰囲気の映画なのかなぁと一瞬迷いましたが、やはり思い直して観ることにしました。

東北大震災直後の放射能漏れ報道に怯えたのか突如失踪した夫が忘れた頃に帰って来た、ガンなんだと言って。
まず、この設定が秀逸でした。
夫が失踪していた間に妻は精神状態を保つために新興宗教にのめり込み、ひとり息子はそんな母から逃げるために親元を離れて進学・就職しているのはありそうなことと感じます。
さらに追い打ちをかけるように夫は高額治療費を出してくれと懇願し、息子は聴覚障害者を婚約者として連れて帰省し、新興宗教は弱みにつけこんでもっと金を搾り取ろうとし、同僚は夫に復讐しちゃえとそそのかします。
私は女性であるものの、この妻のように他人を頼って逃避したり言うなりになったりしないタイプでして、どちらかと言えば夫か息子の立場の方が理解できるので映画自体に感動はしませんでしたが、ただ筒井真理子の演技に感心しました。
ミニシアター公開の邦画に筒井真理子か渡辺真起子か出演しているなら観る価値ありと判断しますので、流石だなあと表情の変化に目を奪われました。
他の女優も癖ある役柄を徹底して演じていて、こういう行動は女性あるあるのことなんだろうなあと冷静に観ていました。
邦画としては珍しいテーマを描いている気がします。
私自身はあまり実感していなかった事象だったので断定できませんが、評価されるべき映画と思います。
ひとつ難癖をつけるならば、タイトルの波紋を可視化するシーンがありますが、あれは漫画みたいで不要だったのではないかと思ってます。

「彼らが本気で編むときは、」の生田斗真と桐谷健太とも、「川っぺりムコリッタ」の松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかりとも違う荻上監督の世界ではありました。
独特な世界観で俳優が光る映画を撮る方なのかなあとも思います。
肝心の、私が最初に惹かれた光石研と言えば、無害の夫だからこそ邪魔な存在になる役どころを演じていたと感じます。
次の主演作ではどの光石研が現れるのか楽しみでなりません。

ミニシアター公開の邦画で聞いたこともない監督の作品だけど予告に惹かれる、どうしようかなあと迷う時に、前述したように筒井真理子か渡辺真起子が出演していれば観ますが、男性の場合なら光石研、川瀬陽太あたりもそうです。
俳優の魅力もさることながら映画への熱量を感じるからです。
また、邦画を観ると決める時は、面白いか否かだけでなく好きな監督か今後期待できる監督かそれとも監督デビュー作かがポイントです。
そこは海外作品とは全く観るスタンスが異なります。
ミニシアター公開を観るのは日本映画を育てる意味で大事と観客ながら心しているつもりです。

June 07, 2023

名古屋シネマテーク閉館の衝撃

ミニシアター中心に映画を観ている私にとって、名古屋シネマテークの7月末閉館の発表は衝撃でした。
頭では苦悩の決断であったろう、観客の私たちよりもスタッフの方が困るはずとわかっていても、感情は大いに揺れ動きました。

名古屋で40年以上ミニシアターとして上映してきた名古屋シネマテークが閉まるということは、名演小劇場が先に休館した(今の動きが続くなら常時上映ではなく不定期上映ではないかと想像)状況ではミニシアターと呼べるのはシネマスコーレ1館になってしまうことを示します。
そのシネマスコーレはコロナ禍にいち早くこのままでは潰れると言い出したミニシアターであり、決して安定した経営ではないそうです。
ですから、第一にミニシアターが減ることに懸念を抱きました。
全国的にもこのニュースは衝撃が走ったようで、映画界でも惜しまれています。
豊岡市の豊岡劇場の閉館、大阪市のテアトル梅田の閉館、東京都の岩波ホールの閉館のどれとも違う衝撃です。

次に思ったことが、名古屋シネマテークが所有している膨大な資料はどういう扱いになるのかということです。
その点で気になるツイートが東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーから発せられていて、その後をじっと待っています。

その次が、名古屋シネマテークは今池という少々特殊な場所にあり、「今池ハードコアは死なず」というフレーズでコロナ禍を乗り切ろうとした、今池はライブハウスとミニシアターが特徴的な庶民的でありお洒落なところもある街です。
その特徴の一端がなくなったら今池はどうなってしまうのか、私には全く予想もつきません。

さて個人的には、ミニシアターで公開される映画は静岡か浜松で公開されるなら地元で観ることにしていて、地元から届かない映画は名古屋で公開されるなら行って観ることにしているので、地元で上映されずシネマスコーレでも上映されない映画をどこで、あるいはどうやって観ればよいのか迷っています。
愛知県内の映画館で日帰り可能なスケジュールで上映するなら行くでしょうが、横浜でも日帰りは厳しいので東京か大阪へ泊りがけでまとめて観に行くのか、ネット配信を駆使するのか、それとも諦めるのかのどれかでしょう。

映画のDVDレンタルも先細りになり、ネットレンタルかネット見放題が主流になりつつあり、映画館で観る映画の位置づけが変わりつつあるのを感じています。
でも、この映画館が選んだ映画だから観る側面があり、ミニシアターが作ってきた映画文化があり、すべての映画がネット配信できる訳ではない現実を思うと、ミニシアターを存続させたいと切に願います。

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