2024年に映画館で観た海外劇映画のランキング
2024年に映画館で観た海外劇映画のランキングです。海外作は本数も多く、観た本数も多いため、選考に残った本数が多くなりました。
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1位 関心領域
マーティン・エイミスの原作を基にジョナサン・グレイザーが監督・脚本を務めた本作は米国・英国・ポーランド合作で、ハピネットファントム配給でした。
収容所所長公邸での家族や使用人、関係者を描くことによって間接的にナチスによるホロコーストがあぶり浮き出され、恐怖をぞわぞわと感じました。間接的に描くことが効果的な点を高く評価します。ネタバレになりますが、ナチスには悪夢のように現在の収容所跡が出現したのも効果的でした。唯一無二です。
2位 No.10
アレックス・ファン・バーメルダム監督・脚本のオランダ・ベルギー合作の今作は、どのジャンルに入れられるのか悩むほどジャンルを横断しているので、好き嫌いが分かれるでしょう。下手をすれば荒唐無稽のB級になるところを踏み留まった唯一感が魅力です。その先の読めない展開に翻弄されながらも楽しめた者の勝利です。2021年製作でフリークスムービー配給なので日本配給の裏側が気になります。
3位 VORTEX ヴォルテックス
あのキャスパー・ノエ監督・脚本の本作はエログロ一切無しのノエ監督作の中では異色です。老夫婦とダメ息子しか登場しないフランス映画でシンカ配給です。2021年製作なので多少の躊躇があったのかも知れません。
まさかノエ監督作をランキングさせるとは思いもしませんでしたが、心臓病の夫と認知症の妻のふたり暮らしを極めて現実的に描いていて、身につまされました。
4位 システム・クラッシャー
今作で長編デビューしたノラ・フィングシャイト監督は脚本も担当したドイツ映画です。極めて現代的なセンスが貫かれ、ある種ぶっ飛んでいます。2019年製作でクレプスキュールフィルム配給なのも国内配給の裏側を覗いてみたくなります。
観た直後はランキングさせると思いませんでしたが、振り返って整理すると上位に来ました。昔から存在する問題を現代に露に晒した点が素晴らしかったです。所謂手に負えない子供を何とかして安全に保護管理しながら大人も負担を抱えないように方法を探る作品は過去にもあったでしょうが、主演の子役の子が凄まじいエネルギーを発していて高評価の半分以上は彼女のお陰です。
5位 人間の境界
アグニエシュカ・ホランド監督のポーランド・フランス・チェコ・ベルギー合作で、トランスフォーマー配給です。現在も起こっている難民問題を国を追及する描き方をしています。
上位とは打って変わってオーソドックスな作りながら、現在の社会問題、いや政治か外交か人権問題でもあるでしょうが、他人事にしがちな第三国に住む私たちに教えてくれたことに感謝しつつ、人間は醜いとも示しています。
6位 ジョイランド わたしの願い
今作で長編デビューを飾ったサーイム・サーディクは監督・脚本を務め、LGBTQを描いたため本国パキスタンでは上映禁止命令が出たそうです。抗議活動が強くなって後に命令は撤回されたそうですが、なかなかの筋金入りの監督と思われます。パキスタン映画でセテラ配給です。
パキスタンでは恐らく当たり前の慣習を描いていて、現代的な女性は抑圧されがちと頷いていると衝撃的な展開を迎え、監督の怒りと熱意を感じ取りました。
7位 ある一生
ローベルト・ゼーターラーの原作を基に、ハンス・シュタインビッヒラー監督作で、ドイツ・オーストリア合作です。激動の時代を生きたひとりの男性の一生を描いているだけですが、学ぶところは多かったです。アットエンタテインメント配給です。
今作もまたオーソドックスで時系列順に描いているので、そういうこともあると物語を追ってラストを迎えた時にハッとさせる力強さがポイントです。世界大戦を経験した故の物語ではなく普遍的な物語なのです。私も生涯を閉じる時に振り返って初めて気づくのかも知れません。
8位 花嫁はどこへ?
キラン・ラオ監督のインド映画で松竹配給なのでベタなコメディかと思いきや、さにあらず、奥深い物語でした。
コメディタッチで始まり、そのつもりで気楽に観ていると偏見と差別が深く横たわっていた物語と気づく作品で、非常に上手く作られていました。インド映画なのに型にはまらず製作できたことにも驚きました。
9位 ジガルタンダ・ダブルX
偶然ながらインド映画が続きますが、「ジガルタンダ」シリーズ第2作のカールティク・スッバラージ監督・脚本で、SPACEBOX配給です。
今作も暴れ者が登場するインド映画にありがちな設定で始まり、収まるべきところへ物語は着地したと思ったら大逆転し、いきなり現代社会の問題へ突っ込んで行きました。私たちに問題を突きつけるところが素晴らしいです。
10位 沈黙の自叙伝
今作が長編デビューとなったマクバル・ムバラク監督が脚本も担当したインドネシア映画で、ムーリンプロダクション配給です。インドネシアでの加害者と被害者の関係は知っていたので、加害者の元で仕事をする少年の気持ちはひしひしと伝わって来ましたし、単純に結論が出せない気持ちもわかりました。
静かに始まる今作は閉塞感を漂わせて物語は進み、ラストで奈落の底へ突き落とされました。人間は業が深いです。
同11位 コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話、草原に抱かれて、父は憶えている、ぼくの家族と祖国の戦争、2度目のはなればなれ
この5作は最後までベスト10選考に残ったものの、どれも甲乙つけ難く、同11位としました。
「コール・ジェーン」は監督フィリス・ナジーの米国映画で、母体を守るには堕胎しかないのに中絶が違法だった時代の物語ながら、現代の米国に通じるテーマであり性差別問題も含む現代的な作品でした。
「草原に抱かれて」は監督チャオ・スーシュエの中国映画で、認知症の母を抱えたミュージシャンが苦しい状況と闘う中で光を見つけた現代の物語です。
「父は憶えている」は監督・脚本アクタン・アリム・クバトのキルギス、日本、オランダ、フランス合作映画で、記憶を失った父が家に帰って来てからの物語は何かのメタファーのようでした。
「ぼくの家族と祖国の戦争」は監督・脚本アンダース・ウォルターのデンマーク映画で、少年から見たホロコーストの物語で、家族はユダヤ人を救う方へ傾き、学校の友人はナチスへなびき、レジスタンスの歳上の友人は殺される中でどうしたらよいのか揺れ動く様子が実際の少年を見ているかのようでした。
「2度目のはなればなれ」はマイケル・ケインの引退作なので枠外にしても良いくらいですが、敢えて残しました。監督オリバー・パーカーの英国映画で、共演のグレンダ・ジャクソンの遺作ともなりました。若くして戦争で戦うことが当時とその後の精神状態に与える影響を描くのは今作が初ではありませんが、演技力のなせる技か、非常に強い説得力があり、ケインの引退作かつ代表作にふさわしい作品に仕上がってます。
番外 サウンド・オブ・フリーダム
今作は他と明確に違う点があり、実話ベースでクラウドファンディングを募っており、ペイ・イット・フォワードを採用して観客の範囲を広げています。ペイ・イット・フォワードに賛同しましたし、製作熱意に感動し、人身売買に思い入れも強いので、ランキング枠外としました。
連れ去られて売られた子供を仕事を辞めて危険を犯してでも取り返す捜査官を、いや現地コロンビアで撮影したと聞いていたのではらはらしながら観てました。メル・ギブソンが製作総指揮として参加し、主演のジム・カビーゼルがメッセージ映像を付け、海外映画から熱意を感じたのは初めてかも知れません。
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